アトピー性皮膚炎の治療
アトピー性皮膚炎の治療
いつまで治療は続くの?
アトピー性皮膚炎を短期間で完全に治すことはできませんが、粘り強く病気と付き合ううちに、皮膚の炎症が少しずつよくなり、最小限の薬で症状が落ちついた状態を維持することができるようになります。そのため、治療の目的としては、
- 症状はないか、あっても軽微であり、日常生活に支障がなく、薬もあまり必要としない。
- 軽微または軽度の皮疹は持続するが、急激に悪化することはまれで、悪化しても長引くことはない。
という状態を目指します。
アトピー性皮膚炎の治療方法
アトピー性皮膚炎の治療は、病気そのものを完治させる薬はないことから、
- 炎症を抑える薬
- 悪化因子の除去
- スキンケア
の3つの方法を中心に行います。炎症を抑える治療としては、ステロイド外用薬やタクロリムス外用薬を中心とした治療を行い、かゆみを強い場合は飲み薬を併用します。悪化因子は問診や検査などから慎重に判断し、できるだけ取り除くようにします。炎症が治まったあとは、保湿薬を使ってスキンケアを続け、皮膚のよい状態を維持します。
よく使う薬
アトピー性皮膚炎でよく使う薬には、ステロイド外用薬、タクロリムス外用薬、保湿薬、抗ヒスタミン薬、抗アレルギー約などがあります。
ステロイド外用薬
ステロイドとは、もともと体内にある副腎皮質ホルモンと同様のはたらきをする薬で、さまざまな臓器にはたらき、体調を整える、炎症や免疫反応をおさえるなどの作用があります。ステロイド外用薬は皮膚の治療薬として50年近く使用されており、炎症抑制作用が実証されています。効果がある反面、副作用も報告されています。しかし、全身的な副作用が問題になるのは長期間ステロイドの飲み薬を使用した場合が多いです。塗り薬の場合、皮膚から吸収される薬の量はすくないため、副作用も飲み薬より少ないのです。もちろん、塗り薬でも塗る場所、量、期間、強さを十分に考えて使わないと、皮膚が薄くなる、血管が浮いてくるなどの副作用があらわれることがあります。また、その作用の強さから5種類に分類されます。
副作用が出ないようにしながら症状を治すために、いつまで塗るかも含め、医師の指示通り薬を使うことが大切です。
※ステロイド外用薬の分類についてはこちらに記載しています。
タクロリムス外用薬
タクロリムス外用薬は、ステロイド外用薬とは違うはたらき方でアトピー性皮膚炎の炎症や免疫反応をおさえます。そのため、ステロイド外用薬でみられる皮膚が薄くなる、血管が浮いてくるなどの副作用はおこりません。ただし、使いはじめに刺激が強く出ることがあります。
タクロリムス外用薬には、成人用(0.1%)と2歳以上の子どもに使う小児用(0.03%)があります。タクロリムス外用薬は成人の場合、ストロングクラス(5段階のうちの真ん中)のステロイドと同等の効果があるため、アトピー性皮膚炎の症状が中等度以下になったときに使うと効果的です(重症の場合は、ステロイド外用薬などを使います)。
薬剤の吸収率がよく、ステロイドを長く使用できない部位によく使用されますが、体や腕、脚などの皮疹にも有効です。
保湿薬
皮膚を保護し、水分を保つ作用があります。
抗ヒスタミン薬、抗アレルギー薬
アトピー性皮膚炎のかゆみをおさえるための補助的治療法として使用される飲み薬です。
抗ヒスタミン薬は、かゆみを起こす物質のひとつ、ヒスタミンのはたらきをおさえる薬です。
抗アレルギー薬は、ヒスタミンに対するはたらきに加えて、アレルギー反応の一部をおさえるはたらきをもつ薬です。
部位別に塗り薬を使い分けるわけ
ひとりの患者さんに程度の違う皮疹がいくつかある場合、数種類の塗り薬が塗る場所を指定して処方されることがあります。また、塗り薬は体の部位によって吸収の程度が違いますので、それぞれの薬を使う場所と量が指示されます。特にステロイド外用薬は症状や部位によって強さが異なるものを細かく使い分ける必要があります。一般に顔は体や手足に比べて吸収がよいので、比較的弱い薬が処方されることが多いです。塗り薬はきちんと指示通りに使い分け、他の部位に塗ったり、他の人にあげたりすることのないよう気をつけましょう。
※ステロイド外用薬の部位別の吸収率はこちらに記載しています。
炎症が治まったら薬をやめていい?
ひどい炎症でもステロイド外用薬やタクロリムス外用薬をきちんと使うと、きれいに治ったようにみえます。しかし、アトピー性皮膚炎の患者さんの皮膚は乾燥しやすいため、異物(抗原)が侵入しやすく、症状がまた出やすい状態が残っています。炎症が治まったあとは、再び悪化することがないように、保湿薬を塗ってスキンケアを続けることが必要です。炎症が治まっても、定期的に病院に通い、医師に皮膚の状態をみてもらうようにしましょう。
塗り薬の正しい塗り方
塗り薬の塗り方は人によってまちまちで、個々の症状に合わせて薬をもらっていても、塗り方が適切でないと、期待した効果が得られないことがあります。正しい塗り方を知っておきましょう。
- 汚れを洗い流したあとの、清潔な皮膚に塗る
- 必要な量をきちんと塗る
(炎症をおさえるためには通常1日2回は必要) - 指の腹に塗り薬をのせて症状のあるところの中心に置き、なでるように薄くのばす。広い範囲に塗るときは、塗り薬を数カ所においてのばす。
飲み薬はどんなときに必要?
アトピー性皮膚炎は強いかゆみを伴うことが特徴です。ステロイド外用薬や保湿薬などで症状がある程度おさまっていたとしても、かゆみが強いとひっかいてまた悪化させてしまうことがあります。かゆみの程度は症状の程度や患者さんのかゆみに対する感じ方などによってちがいますが、いずれにしてもかゆみを減らすことは大切な治療のひとつです。かゆみがひどくてイライラしたり、十分に眠れないときなどは、かゆみをおさえる目的で抗ヒスタミン薬や抗アレルギー薬などの飲み薬を飲む必要があります。
起こりやすい合併症
アトピー性皮膚炎の患者さんは、アレルギーを起こしやすい体質(アトピー素因)であるため、気管支ぜんそく、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎などのアレルギー疾患にかかりやすい傾向があります。また、皮膚のバリア機能が弱くなっていることから、細菌やウイルスが入りやすく、とびひ(伝染性膿痂疹(でんせんせいのうかしん))、水いぼ(伝染性軟属腫(でんせんせいなんぞくしゅ))、単純ヘルペス(カポジ水痘様発疹症)などにもかかりやすいといえます。その他に、顔や目のまわりに湿疹ができると、強くかいたりすることによって、目の病気(白内障や網膜剥離など)を引き起こすことがあります。顔や目のまわりを強くかいたり、たたいたりしないように気をつけましょう。
症状がよくなったり、悪くなったりする理由
アトピー性皮膚炎の皮膚はバリア機能が弱くなっているため、汗や摩擦、外から入ってきた異物(抗原)などの刺激を受けやすい状態にあります。また、肉体的ストレス(風邪、疲労、寝不足など)や心理的ストレスなどが加わると、より一層炎症を起こしやすい状態になります。したがって、症状がよくなって安心してしまい、スキンケアを怠っていると、ちょっとしたきっかけでまた悪くなってしまいます。アトピー性皮膚炎の患者さんは、炎症がおさまって症状がないときでも、以下のことをいつも心がけるようにしましょう。
皮膚を保湿する
保湿によるスキンケアを継続しましょう
皮膚を清潔な状態を保つ
汗や汚れは毎日、入浴やシャワーで洗い流しましょう
睡眠を十分とって疲労をためない
無理をせず、ストレスは早めに発散しましょう
生活環境を清潔に保つ
掃除や洗濯をまめに行い、晴れた日はふとんを干しましょう
体感温度に気をつける
できるだけ涼しい環境を心がけ、熱いお湯での入浴・シャワーは避けましょう
勝手に治療を中止しない
定期的に医師にかかり、皮膚の状態をみてもらいましょう
スキンケアについて
アトピー性皮膚炎のスキンケア
アトピー性皮膚炎を上手にコントロールするためには、炎症をきちんとおさえたあと、悪化因子をできるだけ取り除くことと、スキンケアがとても重要です。アトピー性皮膚炎の患者さんの多くが乾燥肌であり、乾燥肌では、皮膚のバリア機能が弱くなっていて、抗原(異物)や微生物などが侵入しやすく、これらは炎症を起こす原因になります。スキンケアによって皮膚が健康な状態に保たれると、さまざまな悪化因子の影響を受けにくくなり、症状がまた出るのを予防することにもなります。
保湿薬についてはこちらに記載しています。
具体的なスキンケアの方法
スキンケアの基本は、
- 皮膚を清潔に保つこと
- 関スを防ぐために保湿薬を塗ること
- 日常生活で悪化因子を減らすこと
の3つです。
毎日の入浴・シャワー
- 汗や汚れは速やかにおとす、しかし強くこすらない
- シャンプー・石けんを使用するときは洗浄力の強いものは避ける
- シャンプー・石けんは残らないように十分にすすぐ
- かゆみを生じるほどの高い温度のお湯は避ける
- 入浴後にほてりを感じさせる沐浴剤・入浴剤は避ける
- 入浴・シャワー後は必要に応じて適切な塗り薬を塗る
など
皮膚の保湿
- 保湿薬は皮膚の乾燥防止に有用である
- 入浴後には必要に応じて適切な塗り薬を塗る
- 軽微な炎症は保湿薬のみで改善することがある
など
その他
- 室内を清潔にし、適温・適湿を保つ
- 新しい肌着は使用前に水洗いする
- 爪を短く切り、なるべくかかないようにする
など
夏のスキンケアのポイント
夏は汗をかきやすい季節であり、症状が悪化する患者さんもいます。汗をかいて汚れが残りやすい耳のまわり、首のしわ、ひじの内側やひざの裏側などに炎症がおこりやすくなります。夏場は汗を吸収しやすい衣類を着用し、汗をかいたらすぐにシャワーで汚れを洗い流すなどの工夫が必要です。そして、シャワーのあとは忘れずに炎症をおさえる塗り薬とともに保湿薬を塗ってスキンケアを行いましょう。
冬のスキンケアのポイント
アトピー性皮膚炎の患者さんは、乾燥肌の傾向があるため、冬は強い乾燥症状になることがあります。特に赤みやぶつぶつなどの症状が出やすいところが強い乾燥症状となり、かゆみがあるためひっかくと粉をふいたように白くカサカサします。このような場合は、保湿薬によるスキンケアをこまめに行うことが大切です。
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