ノロウイルス感染症
公開日: : 感染症
概要
ノロウイルスはウイルス性胃腸炎の原因として代表的な小型球形ウイルス(SRSV)に属するノーウォーク様ウイルスが2002年に国際ウイルス学会で新しく命名されたものですカリシウイルス科ノロウイルス属に分類されている直径約30nmのエンベロープを持たないRNAウイルスです。
ノロウイルスの電波力・感染力は非常に高く、わずかな摂取(10~100個程度)で感染します。患者の吐物中には1g中約105~106個、糞便中には1g中や約106~1010個の大量のウイルスが含まれているので注意が必要です。また乾燥にも非常に強く、二次感染の原因になる。
感染症
ノロウイルス感染による感染性胃腸炎や食中毒は年間を通して報告されていますが、特に冬季に多発・流行する傾向が全国に見られます。
潜伏期間は1~2日で、主症状は嘔気、嘔吐、下痢です。発熱は軽度で、腹痛、頭痛、悪寒、筋痛、咽頭痛、倦怠感など伴うことがあります。症状は全般的に軽く、通常2、3日で軽快します。しかし、高齢者や乳幼児、病弱な人では嘔吐・下痢による脱水症状や窒息、誤嚥性肺炎などにより死亡例も見られるので注意が必要です。 ウイルス性胃腸炎集団発生の最も重要な病原因子であり、小児から成人までの全年齢層に感染し、小児には散発性の急性胃腸炎(主に嘔吐)を、年長児から成人に集団食中毒(主に下痢)を起こします。 現在、ノロウイルスに効果のある抗ウイルス剤やワクチンはありません。通常、対症療法を行いますが、最も重要なことは経口や点滴などによる水分補給により、脱水症状を防ぐことです。
感染経路
基本的には食品や糞口などによる経口感染が主ですが、食中毒事例のうち、約7割は原因食品が特定できていません。感染力が強く、乾燥に強いため、接触感染や飛沫感染、ほこりとともに周辺に散らばる塵埃感染による二次感染も起こると考えられています。
症状が消失した患者がその後1週間程度、長い場合は1ヵ月にわたって便中にウイルスを排泄することが知られており、二次感染に注意が必要です。
経口感染
- 生や十分に加熱していないウイルスに汚染された食品:カキなどの二枚貝が代表的原因食品
- 調理した人の手指や調理器具を介して汚染された非加熱食品:サラダ、サンドイッチなど
- 汚染された水や氷:集団感染は大規模になりやすい
接触感染(接触した手指を介して口から入る場合)
- 感染した人の便や吐物に触れた手指を介する
- 感染した人の手指や感染した人が触れた衣服、器具、環境などへの接触による
飛沫感染
- 患者の便や吐物が飛び散り、その飛沫を吸い込む
- 便や吐物を不用意に始末したときに発生した飛沫を吸い込む
空気感染(具体的には塵埃感染)
- 患者の便や吐物の処理が不十分な場合、それらが乾燥して塵埃として舞い上がり、経口感染する
感染対策
ノロウイルスの消毒剤感受性
加熱(85℃で1分以上)が有効とされています。
消毒剤では次亜塩素酸ナトリウムが有効であり、エタノールや逆性石鹸はあまり効果がないとされています。しかし、エタノール製剤については添加物の違いにより効果に様々な報告があります。次亜塩素酸ナトリウムについても血液や体液、食物残渣の存在により速やかに濃度や効果が低下するなど、使用には注意が必要となります。
ノロウイルスの感染対策
ノロウイルスの感染経路は、汚染食品を介した経路と感染者からの二次感染に大別されます。 食品を介した感染を防ぐには、ウイルスで汚染された食品の調理は加熱を十分に行うことが効果的です。また、調理器具の熱湯消毒・塩素消毒、手洗いや手袋の使用などが重要です。
人から人への感染予防としては、手洗いやうがいなどが重要とされています。標準予防策の徹底が最も重要で、その他接触予防策や飛沫予防策を実施し、状況に応じて適切な感染予防を行います。
ノロウイルスの感染防止対策例
- 手指
- 石けんを用いた十分な手洗いが対策の中心になります。
エタノールのみではあまり効果がないとされていますが、手洗い後、アルコール擦式手指消毒剤を使用することにより追加効果が期待できます。
また、手袋を使用することは感染対策として有効ですが、他患者や周囲の環境を汚染しないよう、適切に交換することが必要です。
- 食品
- 貝類、野菜など食品中のノロウイルスの失活温度と時間については、現時点においてこのウイルスを培養細胞で増やす手法が確立していないため、正確な数値はありませんが、同じようなウイルスから推定すると、食品の中心温度85~90℃で90秒以上の加熱を行えば、感染性はなくなるとされています。
- 調理台
調理器具 - 調理器具などは十分に洗浄した後、次亜塩素酸ナトリウム0.02%で消毒します。また、まな板、包丁、へら、食器、ふきん、タオルなどは熱湯(85℃で1分以上)での加熱が有効です。
- 吐物
糞便 - 患者の吐物や糞便を処理するときには、使い捨てのマスクと手袋を着用し、汚物中のウイルスが飛び散らないように、静かに拭き取ります。
床に付着した糞便や吐物は次亜塩素酸ナトリウム0.1%で拭き取ります。
ノロウイルスは乾燥すると容易に空中に漂い、これが口に入って感染することがあるので、吐物や糞便は乾燥させないことが感染防止に重要です。
- リネン類
- ベッドマット、毛布およびシーツなどのリネン類の消毒は、下洗いのあと85℃で1分間以上の熱水洗濯が適しています。ただし、熱水洗濯が行える洗濯機がない場合には、水洗後、次亜塩素酸ナトリウム0.02%での消毒が有効です。
- 環境
- ドアノブなどの環境を介した感染も考えられ、トイレ・風呂などを衛生的に保つことも重要です。消毒が必要な場合は次亜塩素酸ナトリウム0.02%などをご使用します。ただし、次亜塩素酸ナトリウムは金属腐食性があり、その後水拭きして除去するなどの配慮が必要です。
なお、次亜塩素酸ナトリウムは、酸性の洗浄・漂白剤、シアヌール酸系の製品と混合すると塩素ガスが発生して危険ですので、注意してご使用ください。
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